消えない印

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透明な液体に揺らぐ、幻想的な世界のよう。 青い小魚達が4、5匹、暗い水槽でゆらゆらと泳ぎを楽しんでいた。 時間かけて観察したくて、腰を屈めた。 「綺麗……。」 微笑ましくなり、私は密かに呟く。 小さな水族館みたい。 水中で、ネオンテトラというサファイアの宝石が漂ってる。 私はその揺らめきを、しゃがみこんで見つめ続けた。 ずっとずっと、見続けたいと思って、ガラス越しのネオンテトラに指を近づけてみる。 嫌なこと全部忘れさせてくれる。 この清浄な世界に、溺れることが許されるなら。 穏やかに、のびのび過ごせそう……。 「浄化力あるだろ。」 いつの間にやら背後で壁に寄りかかっていた彼が、ズボンのポケットに手を入れて微笑んでいた。 「知り合いからの貰い物。もう飼育歴2年。」 「結構世話好きなんですか?」 「なんつか……たまにコイツら見てると、俗世離れの疑似体験出来んだよ。」
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