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「あー、あー、すいませ……あ、ありがとうございます」
誤ることではないのに、あまりにも――わたしったらかなり無防備な状態だったから――突然だったので、つい「すいません」と言いかけて慌てて言い直した。
彼は糸くずをわたしに見せて、「どうぞ」というような目でわたしを見つめた。
慌ててそれを受け取るわたし。
「キャベツ、高いですよね」
それはもう、わたしの体温を上げるのに十分な素敵な声で彼は言った。
「あー、そうですね。買うかどうか迷っちゃいますよね」
「しかし、迷ってもこれしかないから……」
そういって彼はキャベツひとたまを軽々と片手で掴み、キャベツをひっくり返して芯を眺めた。
「うん、これにしよう。それじゃ」
そういえば聴いた事がある。
キャベツの選び方――
芯が大きすぎるとダメなんだっけ……。
そうじゃない、糸くず!
なんで糸くずなんか……。
「あっ……あのときか!」
夕方に打ち合わせに行ったクライアントはアパレル関係の会社だった。わたしはwebデザイナーで、そこで扱っている商品をいろいろと見せてもらったのだが、たぶん、そのときに体のどこかに着いたのか……。
なんにしても会社からここに着くまでの1時間弱の間、わたしは頭に糸くずをつけたまま、歩いていたことになる。
なんという失態……。
「あれ?糸くずは……どこ?」
わたしの手にはしっかりとその糸くずが握られていた。
「これって『運命の赤い糸』ってやつ?でもわたしの糸は、赤じゃなくて茶色なのね」
わたしは一歩踏み出して、少しばかり高いキャベツを買うことにした。
12月。スーパーには『年末セール』の文字が躍っている。どこかふさぎがちだったわたしの心は、少しだけ踊りだしたような気がした。ただそのダンスは少しばかりぎこちない。
わたし……。
ダンスはうまく踊れない。
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