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5.飲もう!
「あー、もーダメダメ」
わたしは自分のデスクに身をうずめてもがいた。
彼の――あのキャベツを鷲づかみにしたあの人のことが頭から離れない。
背の高いコートを着た男の人の後姿を見るたびに胸がときめいてしまう。
「どーしたんですか、先輩。プレゼン、だめだったんですかぁ」
わたしは親指を突き出しサムズアップポーズを決めた。
「えー、よかったじゃないですか、でも、何か問題でも」
後輩のサッチンは鋭い嗅覚を持っている。それもかなり天然の。
「今晩ヒマか?」
「やだー、そんな~、先輩からのお誘いを断るわけにはいかないじゃないですか~、でっ、でっ、なんですか、なんですかぁ」
「その話を聞きたければあと二人ほど声をかけなさい。ただし……」
「――ただし、男子禁制ですね」
「肉だ。肉。肉食おう」
わたしの社内でのポジション。
――いつの間にか上には役付きのお偉いさんしかいなくなってしまった。
リーダーなんていわれるのは、なんとも苦手だけど『姉(あね)さん』と面と向かって言う男子社員は後ろから蹴飛ばしてやった。
わたしは姉御肌なんかじゃないのに、どうもこの職場はそういうキャラを無理に人に求めてくるきらいがある。
確かにデザイナーとかPC使う仕事の人は、文化系が多い。
わたしは3年間陸上部に所属していたから、他の人に比べれば、体育会系のオーラが出ているのかもしれない。
でも、わたしはそんなに純粋な陸上少女じゃない。
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