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「素直じゃない……かぁ。なれるわけ、ないじゃない。小娘相手に……」
少しお酒を入れてみんなでワイワイやれば、気もまぎれると思ったわたしが馬鹿だった。
気をまぎらわせる?
いったい何から?
わたしは「わたし」に対しても素直になれなかった……。
だってなれるわけがない。
最寄の駅の改札を出る。
家までは10分ほどだが、ここは比較的夜でも人通りが多い街。
部屋の前に着くまでにわたしの胸が苦しくなった回数は3回だった。
「わかっているわ。そう。嘘よ。これはどっちかといえばついてはいけない嘘なの?」
わたしは自分自身に嘘をついていた。
「彼の顔を覚えていないんじゃない。思い出したくないだけ……。だって、だってそっくりなんだもん。あの人と……」
どこか彼の面影を思わせる男性の姿を見かけるたびに胸が痛くなる。
帰り道を急ぐ人影の中に、いつの間にか彼の姿を探してしまう。
そしてあの人の影を追いかけてしまう。
「よし、泣くか!」
わたしは本棚から一冊のマンガを取り出した。
中学生のとき、友達同士で回し読みをしてみんなで泣いた。
このマンガを開くと情景反射的に涙が出てくる。
ブルーな気分になった時は、思いっきり泣けばいい。
わたしはこうして数々の難関を乗り越えてきた。
そしてきっと夢を見る。
一人寂しくさまよう蝶々の夢を……。
1の巻 終わり 2の巻につづく
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