2の巻

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 爪先立ちで背伸びをして少しばかり遠くを眺めてみれば、目の前のつまらないことに、心捕われることなんかないんだよって――素敵なあの歌は、そう、わたしに教えてくれたっけ?  両手に荷物をいっぱい持ったわたしは、さながら友だちに荷物を持たされてトイレの前で待っているようだった。  そんなわたしをあなたは――彼は見つけてくれた。 「こんにちは、すごい荷物だね?あっ、友だちの荷物を持ってあげているとか?」  神様、いや、仏様、いや、大明神様……。  わたし、どうしたらいいんでしょうか? 「いえー、これは、あのー、全部あたしの荷物で……」  彼は優しくわたしに微笑んでくれた。 「すごいなぁ、僕にはマネできないや」  今日のこの日、この瞬間を忘れない。  彼のあの笑顔を忘れることなんかできない。 「あ、あのー、この前は……、ありがとうございました。わたしぜんぜん気付いてなくて」  荷物が多すぎて、きちんとお辞儀ができない。  駅前の交差点。  信号が青に変わろうとしている――。  お願いもう少しだけ時間を頂戴。 image=461130889.jpg
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