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「ははぁ、調子に乗って買い過ぎちゃいました」
ちがう、そうじゃない、他に何か言う事があるでしょう!
もう、どうしよう、信号がかわっちゃう。
彼の視線が信号機へ写った。
「なんかいいことでもあったのかな? ところでキミはこの町の人?」
「いえ、あ、えーと、でも5~6年になります。ここに住んでから……」
「この辺にコーヒーの専門店とかあるかなぁ? 引っ越してきたばかりで、まだよくわからないんだ。豆を切らしちゃって……」
わたしには心当たりがなかった。
インスタントコーヒーしか飲まないわたしには、コーヒー豆のことなどわかるはずもなかった。
「ごめんなさい、わたし、インスタントしか飲まないから……」
あっダメ、信号変わっちゃったよ。
「そう……、へんなこと聞いちゃったね。じゃぁ」
彼は人波に少し遅れて交差点を渡しだした。
わたしはまるで動く事ができない。
追いかけなきゃ、追いかけないと……。
お願い振り向いて!
恋したっていいじゃない!
「あのー、よかったら一緒に探しませんか?」
わたしはとうとう一歩前に出た。
フラフラとよろめきながらも、クラクラになりながらも、それでもわたしは一歩前に踏み出した。
彼の大きな背中めがけて……。
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