2の巻

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3.逃げるわたし 「いいのかなぁ、つきあわせちゃって」  彼は振り向いてくれた。わたしは一生懸命に彼を追いかけた。 「いいんです。その……、この前のお礼もしたいですし」  彼はわたしの少し前を歩きながら、振り向き加減でわたしに話しかけてくれた。 「あー、あの時は、そうだね。逆に恥ずかしい思いさせちゃったかな」  覚えていてくれた。  それだけでわたしには十分だった。  二人にとって本当に一瞬の出会いだったけど、わたしには彼を忘れられない理由があった。  彼はわたしが高校生のときに憧れた先輩にそっくりだったのだ。  憧れて、恋をして、そして別れた先輩……。  でも、彼がわたしを覚えていてくれたなんて、それは軌跡のようなものだと、その時は思った。 「あー、そんなの、ぜんぜんいいんです。あのまま家の鏡を見るまで気付かなかったらと思うと……。あ、あのー、心当たりはあるんです。コーヒー、わたしはあまり詳しくはないんですけど、たぶんわかると思います。こっちです」  今にして思えば、まったく、一体全体すっかり舞い上がってしまって、まるで十代の夢見る少女のようだったと、顔を赤らめるばかり……。
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