1の巻

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 彼のために料理を作るのはいつ以来だろう。  去年はよく、彼の部屋に行って料理を作ってあげたっけ。 「ねぇ、お砂糖どこだっけ?みりんある?」  彼のキッチンはとても整理されていて、女のわたしでも感心するほど――  でも、そういう事の一つ一つが、重たく感じることがあるんだなんて、わたし、思っても見なかった。  彼はわたしが作ってあげたのと同じ料理を見よう見真似で作ってくれたこともあったっけ。 「どうかな?ちゃんと出来たかなぁ?」 「すごい、ちゃんと肉じゃがになってるよ」  どんなことにも前向き、そしてなんでもそつなくこなしてしまう彼……  別にすれ違いとか、そんなんじゃないの。  彼が変わったわけでも、わたしが変わったわけでもない。  でも、少し背伸びをしていたのかもしれない。  彼もわたしも――。  だからちょっと疲れただけ…ただそれだけ…。 「痛っ!」 image=460991516.jpg
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