1の巻

4/21
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/115ページ
 ニンジンを切る手がすべり、わたしは小指に小さな傷を負った。 「もーう、バッカみたい!彼に笑われちゃうわぁ……」  でも、本当に笑ってくれるかしら……。  そのときとっさに頭に浮かんだのは、わたしの小さな傷の跡を、ひどく心配そうに眺めている彼の姿だった。  そしてそんな彼を見ながら「馬鹿だなぁ」と笑いながら言って欲しかったと、戸惑っているわたしの姿も…… 「馬鹿だなぁ……もう」  日はすっかりかげり、不安な気持ちが募り始めていた。 「来るかなぁ」  きっとくる。  彼は今まで約束を破ったことはない。  どんなに遅くなっても必ず会いに来てくれた。  わたしとはちがう……。 「プルルル…プルルル…」  期待を裏切って電話のベルが鳴る。  電話に出たくない。  お願い、誰か、電話のベルを止めて…… image=460991643.jpg
/115ページ

最初のコメントを投稿しよう!