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ニンジンを切る手がすべり、わたしは小指に小さな傷を負った。
「もーう、バッカみたい!彼に笑われちゃうわぁ……」
でも、本当に笑ってくれるかしら……。
そのときとっさに頭に浮かんだのは、わたしの小さな傷の跡を、ひどく心配そうに眺めている彼の姿だった。
そしてそんな彼を見ながら「馬鹿だなぁ」と笑いながら言って欲しかったと、戸惑っているわたしの姿も……
「馬鹿だなぁ……もう」
日はすっかりかげり、不安な気持ちが募り始めていた。
「来るかなぁ」
きっとくる。
彼は今まで約束を破ったことはない。
どんなに遅くなっても必ず会いに来てくれた。
わたしとはちがう……。
「プルルル…プルルル…」
期待を裏切って電話のベルが鳴る。
電話に出たくない。
お願い、誰か、電話のベルを止めて……
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