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剛は思い切って言ってみた。しかし意外な答えが返ってきた。
「剛君、浴衣を着るのはやめたほうがいいわよ」
「どうして?浴衣姿見せてくれよ」
真由は仕方ないわねといった顔で言った。
「いいわ、でも何が起きても驚かないでね」
「何か起きるのか?」
「ええ、でもいずれわかることだから。じゃあ明日また迎えに来てくれる?あと、夜道は危険だから送ってもらってもいいかしら」
「もちろんだよ。俺も東京にいた時祭りの時は浴衣着ることが多かったんだ。楽しみにしてるよ」
真由を家まで送り届けると剛は家に帰った。
「ただいま」
「ああ、楽しかったかい?」
「まあな、明日も行くんだ。浴衣着て行くから出しておいてくれよ。着るのは自分で出来るから」
「はいはい、分かったよ」
次の日になった。ああ、一日が長い。早く日が暮れてくれ。剛はまだ日が暮れる前から浴衣を着こんで待っていたが、とうとう出かけることにした。両親はもう祭り見物に行ったらしい。真由の家についた。ちょっと早すぎたかな。しばらく家の前で立っていたが夕日が落ちたのを確認して、玄関まで行って声をかけた。
「こんばんは~、剛です」
すると真由がTシャツとデニム姿で出てきた。
「ああ、剛君。まだ浴衣着てないの。ちょっと待っててくれる?」
「もちろんさ、一時間でも待ってるよ」
真由は家の奥に消えて行った。そうか、髪もアップにしてくれるんだろうな。真由の白いうなじを想像するだけで胸の鼓動は早くなった。
「お待たせ」
真由が玄関わきの部屋から顔を出した。真由の顔、いや首から上だけがにゅうと伸びて来た。
「ぎゃあー!」
「剛君、だから言ったでしょう?それでも彼女にしてくれるの?」
真由の声を背に剛は全速力で走った。やぐらの周りには人ごみ、いや妖怪が群がっている。
やっと家に着いた。
「おかえり」
母親の声が居間から聴こえた。剛は今見てきたことを話そうと雪駄を脱ぎ、居間に入った。しかし・・・そこにはやまんばと一つ目小僧が座っていた。剛は絶句した。やまんばが言った。
「剛に言ってなくて悪かった。この村で生まれたもんは皆妖怪なんだよ。妖かしと言ってな。祭りはみんなが本当の姿に戻る楽しいひとときなんさ」
剛は体がガタガタして震えが止まらない。
「お、俺だけなのか?人間は」
「なーに言ってるんだ、お前もこの村で生まれたんだよ」
「嘘だ、この化け物」
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