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午後6:30。会社を後にし、待ち合わせ場所へと急いだ。私の勤めている会社は、新横浜のオフィスビルの一角に位置している。急がなくても、待ち合わせに遅れることなどないのだが、時間ではなく、気持ちが足を早めていた。
早く会いたい。
今私を支配している全ては、それだった。
待ち合わせ15分前。横浜駅のJR改札口前に私は立っていた。
辺りを見渡したが優子らしき姿は見つからない。時間前だしな。と思い、気には止めず、携帯を取り出し妻宛のメールを打った。
『仕事遅くなりそうだから、夕飯は会社で済ますよ。目処が立ったらまた連絡する。』
打ち終わって顔を上げると、改札口から次々と人が出てくるのが見える。
――この電車か?
出てくる人々を注視し確認するも、優子の姿はそこには無かった。
再び携帯に目を落とし、送信ボタンを静かに押した。『送信しました』の表示を目にし、心の奥から這いだしてくる罪悪感が私を襲った。
――本当にこれでいいのだろうか?
すでに待ち合わせ場所に立ち、もうすぐ優子が現れるであろう時間が迫っている。
――今さら帰るなんて、出来るわけがない。しかし……
その時だった。私の左手を、そっと包み込むあたたかい温もりが触れた。
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