77人が本棚に入れています
本棚に追加
/90ページ
驚いて目を向ける。左手を握る右手、ゆっくりと腕を伝うように視線を沿わせてゆく。
赤いジャケット。それに包まれている細くしなやかな手首。
小柄なのか、腕はそんなに長くない。
白く透き通るような首筋。ほっそりとしていて、か弱さまでも感じさせる。
視線が顔まで達したとき、左手を握る者と目があった。優しく微笑むように笑っている。
――優子。
「お久しぶりです」
そう言って優子は手を離し、軽く頭を下げた。
驚いた。年齢的に、確かに老け変わる歳ではないのだが、目の前にいる優子は……まるで、付き合っていた当時から、時が止まっているんじゃないか?と思わせる程に、そのままだった。
容姿に驚き黙っている私に、怪訝な表情で優子は尋ねた。
「どうかした?」
優子の言葉にハッと我に返り、慌てて言葉を返した。
「あっ、いや、別に。それより、お前ほんとに変わらないな」
ふふっと笑って優子は言った。
「そんなことないわ。私だって年を取ってるのよ。それに、それを言うならあなただって変わらないじゃない」
「そうか?まあいいか。それより、場所を移そうか」
そう言って、私は近くのレストランへと歩き出した。その歩みは、隣を並んで歩く優子の歩調に合わせるように、当時のようにゆっくりとしたものだった。
最初のコメントを投稿しよう!