2/6
前へ
/90ページ
次へ
 自宅に戻ったとき、時刻は深夜一時を回ろうとしていた。  玄関の鍵を静かに回すと、物音を立てないようにドアをゆっくりと開ける。少し開いたところで手を止め、隙間から中の様子を窺った。  リビングの明かりが点いている。しかし、物音はまったくしない。  帰ってくる夫のために、妻が電器を点けておいてくれた。そう考えるのが普通だが、淳一は違っていた。 ――起きている。待っている。妻はリビングで私を待っている。  第六感。私の人生でそんなものが働いたことは記憶にない。しかし、今それが、私に向かって警戒音を発している。  鼓動が早くなる。全身に緊張が走る。額にはうっすら汗が滲んでゆく。  家の中に入り静かに鍵をかけた。そのままリビングまで続く廊下を、ゆっくり、ゆっくりと歩いてゆく。  リビングが近付くにつれ、警戒音はさらに激しくなった。私の鼓動も激しく動悸し、押し殺しいる息は静かだが荒い。  リビングのドアノブに手をかける。ドアの下から光が覗く。手にしたドアノブの冷たさのせいなのか、私は一回身震いし、ゆっくりドアを開いた。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

77人が本棚に入れています
本棚に追加