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自宅に戻ったとき、時刻は深夜一時を回ろうとしていた。
玄関の鍵を静かに回すと、物音を立てないようにドアをゆっくりと開ける。少し開いたところで手を止め、隙間から中の様子を窺った。
リビングの明かりが点いている。しかし、物音はまったくしない。
帰ってくる夫のために、妻が電器を点けておいてくれた。そう考えるのが普通だが、淳一は違っていた。
――起きている。待っている。妻はリビングで私を待っている。
第六感。私の人生でそんなものが働いたことは記憶にない。しかし、今それが、私に向かって警戒音を発している。
鼓動が早くなる。全身に緊張が走る。額にはうっすら汗が滲んでゆく。
家の中に入り静かに鍵をかけた。そのままリビングまで続く廊下を、ゆっくり、ゆっくりと歩いてゆく。
リビングが近付くにつれ、警戒音はさらに激しくなった。私の鼓動も激しく動悸し、押し殺しいる息は静かだが荒い。
リビングのドアノブに手をかける。ドアの下から光が覗く。手にしたドアノブの冷たさのせいなのか、私は一回身震いし、ゆっくりドアを開いた。
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