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リビングに妻は居なかった。私の視界に広がったのは静かな空間。異様に明るく感じる白い光。私が良く知るいつもの光景だった。
――気のせい……だったのか。
しかし、私の口から安堵の息は漏れなかった。まだ警戒音は止んでいなかったのだ。
それも気のせいだと自分に言い、私は服を脱ぎ、軽くシャワーを浴びた。風呂場から上がると、髪を乾かし、部屋着に着替えた。それからお茶を飲み、リビングのソファへと腰掛けた。
相変わらず、物音一つしない静かな空間。私は今日のことを思い出していた。
白く透明な肌。潤いを含んだ柔らかな唇。抱きしめると壊れてしまうのではないかと心配になる程華奢な体。どれも私の記憶にある、優子のままだった。
優子と重なり一つになった時に私が感じていたのは、妻に対するものとは違う《愛情》だった。しかし、私はそれを認める訳にはいかなかった。
ふと、時計に目をやると、二時近くなっていた。ソファから腰を上げると、電器を消し、寝室へと向かった。
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