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 静かに寝室のドアを開き中に入ると、やはり妻は寝ていたようだ。ベッドで横になっている。こちらを向く気配はない。  ベッドの脇に移動し、妻の顔を覗き込む。小さい寝息と穏やかな寝顔がそこにあった。頬を一回撫で、妻を起こさないよう静かにベッドに入り横になった。  目を瞑り、再び優子のことを思い返す。 ――何故、彼女はラブホテルに行きたがったのか?それと、別れ際に彼女が「私達が別れた時のこと覚えてる?」と訊いてきたが、覚えてない。と返した時の、彼女の表情は何だったのか?  私は自分の記憶の中を探っていた。薄れ、消えてしまった過去の記憶。順を追って辿って行くも、記憶の軌跡は途中で途絶え、やはり思い出すことは出来なかった。  もう寝よう。そう思った時だった。何か、とてつもなく嫌な感じが私を襲った。警戒音は再び音を上げ、先程よりもさらに大きく、異常なほど激しく鳴り響いた。
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