元カノ

５

　今朝目覚めた時、妻はキッチンで朝食の準備をしていた。

　私は恐る恐るリビングへ移動すると、静かにソファへと腰を下ろした。

「おはよう」

キッチンの方から聞こえてきた声は、いつもの妻の声と変わらない。

「おはよう」

　私もいつものように返した。つもりだったが、声が少し震えていたらしく、妻は心配そうに、「大丈夫？」と訊いてきた。

　何でもない、大丈夫だよ。と言って返すと、それならいいけど。と妻も返した。

　それから朝食を取りながら、少し会話を交わして家を出た。

　昨日のことは夢だったのかもしれない。もしかすると、眠気で見間違えただけなのかも。等と考えながら電車に揺られ、会社へと向かっていた。

　業務は順調に運んでいった。少し忙しい日ではあったが、問題は一つも起こることなく、気付けばあっという間に時間が過ぎていた。

　もうすぐ業務時間が終わろうとしていた。

――今日は早く帰って、妻とゆっくり過ごそう。

　二時間ほど前。妻からメールが送られてきた。

『今日は調子が良かったので、ごちそう作っちゃった✨早く帰れそう？』

『ああ、今日は大丈夫だと思う。ごちそうか、楽しみだな😃』

　送られてきたメールを見返して、私は小さく微笑んだ。私は妻のことをやはり好きなのだ。もうすぐ生まれてくる子供。二人を幸せにしたい。精一杯愛したい。

　しかし、そう思ってすぐ、優子のことが頭をよぎる。

　昨日の晩、一つに重なった。お互いに相手を求め合い、愛と欲情のままに過ごした時間。思い出す度、私の奥の方が熱く熱を帯びてゆくのを感じずにはいられなかった。

　デスクに広げた書類を片付けると、帰りの支度を始めた。あと五分もすれば終業を告げるチャイムがなるという時、私の携帯に一通のメールが送られてきた。