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私は、長い長い旅をした。
目的は、私の好奇心を満たすため。悪く言えば物見遊山のようなものかもしれない。立場を考えれば身勝手なのかもしれないが、私は世界の広さを知りたかったのだ。
ただ、長らく暮らしていた故郷を離れる時は流石に寂しかった。皆も惜しんで泣いてくれた事を覚えている。
かくして。旅をするための物々しい審査や手続きを済まし、私は期待に胸を膨らませながら世界に飛びだしたのだった。
そう、私はまさに飛ぶように世界を旅した。
たくさんの場所、幾つもの時代を眺めた。
海とはここまで広大で深く、こんなに静かで荒々しいものであったのか。
そして大海原を航海する逞しき人々を眺め、私は危険をも省みぬ彼等の姿に敬服の意を感じた。
空とは、何処においてもやはり空であった。昼は蒼く輝き、夜は闇に包まれる、その不変の在り方には驚かされる。
人類は、この大空にすら挑戦するのか。鉄の塊を操り空を舞うとは、実に不可思議であった。
大陸は、ここまで多様に自然を育んでいたのか。私の生まれ故郷では想像だに出来ぬほど美しく彩られていた。
そして、人々の生き様もまた多様なものだった。時の流れにつれ、彼らは試行錯誤し、考え、時には争い、そして確かに進んでいる。その思想、技術、力には学ぶべき事に大いに溢れていた。
この旅は、実に有意義なものであった。
やはり、この世には私が学ぶべきものがたくさんあったのだ。
そろそろ、帰る時だ。
幾星霜にも及ぶ旅の果て、私は何千年かぶりに故郷を目指す事にした。時の流れによって世界の風景は変わり続けているが、大丈夫だ。故郷の皆が、巨大な目印を造ってくれている。
かくして。私は帰路につく。
最後に、自分自身を見つけるために。
砂漠に聳える、巨大なピラミッド。
誰もいない地下深くに眠る、一体の王のミイラが、ひっそりと目を開いた。
まるで、長い旅を終えた彼の魂が無事に自分の骸にたどり着き、蘇ったかのように。
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