「決闘」という言葉がある。

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 東方が僅かに光る。朝方。  まだ闇が立ち込める森林の中、その二人は合間見えた。 「貴様か。我輩の縄張りを荒らす不届きものは」  剛然とした立ち姿で、その者は眼光鋭く言い放った。  重厚な鎧を身に纏っている。全身隙なく固められ、肘関節や足などの要所には棘を模した防具がつけられていた。漆黒に輝くそのずんぐりとした堅甲は、ともすれば鈍重とも捉えられるが、同時に確かな防御力と重量を覚えさせる。  そしてその者は、一本の長剣を携えていた。長く、そして寧ろ大剣と呼ぶべきほどの強固さを備えた剣。しかし、彼は軽々とその長剣を支えている。 「別に、ここばあなたの領地とは決まっていないでしょう。私にだってここを手に入れる権利はある」  対する者は、飄々とした態度で不敵に笑っていた。  同じく黒く染まった装備を身にしているが、圧倒的に軽装備だった。胸や腹部等の急所に薄い鎧を付けられているのみで、その厚さは明らかに劣っている。しかし、重厚な印象を与える前者とは対照的に、スラリとした彼の出で立ちは俊敏さを感じさせる。  彼も武器を携えていた。二本の細い小太刀。これも素早さを際立たせているが、ギザギザとした刃には、秘められた凶暴さが滲み出ている。  長剣を携えた者が、脅すように剣を強く振るった。 「貴様のような者に権利などない。ここは、我輩だけの地だ」  双剣使いも、一歩も引かずに相対する。 「貴方にだけうまい蜜を吸わせるような真似、私が見逃すとでも?」  沈黙が満ちた。お互い、相手を睨んでまんじりともしない。  静かな森の中、震えるような闘気が広がっていく。  やがて、暗かった森が、いつしか木々の隙間から徐々に差す青い空の光に染められていった。  それは、決闘の瞬間が近いことを示していた。  そして。  一枚の落ち葉が合図となった。  カサリ、と乾いた音が響いた刹那。  雄叫びと共に、両者は駆け出した。 「あ、パパ見てみて! 木の上でカブトムシとクワガタが喧嘩してるよ!」 「お、こいつは凄い。早起きして良かったな」 「うん!」
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