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「……むかーし昔な。一人のガキが居た。ガキは両親と折り合いが悪くてな…まあ、母親の浮気相手との子だったから仕方ないんだが。ともあれ、産んだはいいが邪魔にしか思って無い母親と、自分の子では無い上に憎むべき相手の子である俺を同じ様に憎む父親とに挟まれ、最悪の環境だった訳だ」
犀人は不思議そうな顔だったが、黙って聞いている。ガキには難しい話だろうし、理解出来るかどうかも分からないが、まあどちらでもいいかと思っていた。要点は、伝わる筈だ。
「ある時、遂にガキは父親に殺されかけた。だが自身の生命を優先したガキは、逆に父親を刺してしまった。母親は逆上し、混乱し、父親の腹に刺さった包丁を引き抜いた。当然、血が吹き出す。そんな下手な事をしなけりゃ助かった筈の父親は、大量の出血により死んでしまった」
思い起こされるのは、赤色に彩られた鮮烈な光景。俺は只怯え、帰り血に塗れた母親を見ていた。
「そこで糸が切れたんだろうな。母親は大声で笑いながら、ガキに包丁を振りかざした。ガキは必死で逃げた。そして母親は騒ぎを聞き付けた大人達に取り押さえられ、それでも暴れに暴れた結果他の人間にも斬りつけ、結局手に負えずにそのまま殺された」
母親の死体の目を、俺は一生忘れないだろう。暗く、濁り、淀み、何も映さない死の色。先刻まで生きていたと言うのに、そこには何も残って居なかった。死ぬと言う事は何も無くなり完全に無になる事なんだと、俺は解した。
「事件は、気が狂った母親が父親を殺し子供をも殺そうとした…と言う事になっていた。ガキはその後親戚に引き取られたが、結局行方を晦ました。自分は必要では無い、何処に居ようと同じだと思ってな。結果ガキは堕ちた。底辺以下のクズにな」
居ても居なくても同じなら、此処に居る必要は無い。俺は九歳にしてかっぱらい、引ったくり、強盗を繰り返し、糧を得るクズに成り果てたのだ。
「街を巡り犯罪ばかりを繰り返すガキは、ある時マズイ奴に手を出した。故に捕まり、拷問され、殺されかける。しかしたまたまそいつを殺しに来た殺し屋が、ガキに目を付けた。殺し屋はそいつを依頼通りに殺すと、ガキを連れて行った」
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