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師父は、生粋の殺し屋だった。その生き方以外知らない、人道破綻者だった。
だがそんな破綻者にも、うっすらとだが情が残っていた。見出だした才能に対する、強い執着もあった。
「殺し屋に剣を叩き込まれ、ガキもまた立派な殺し屋になった。だが、殺し屋は死んでしまう。毒刃を受けての事だった。そして死の間際、ガキに告げた」
「俺が死んだら、殺し屋を辞めろ」
「そうだな、お前は手先が器用だし鍛冶屋にでもなれ。もう、こんな世界に…関わるな」
「ガキは遺言通り、刀匠として修業を重ね鍛冶屋となった。だが殺し屋は一つ、間違っていた。人を斬る物を造る仕事に就いてしまっては、彼の言う『こんな世界』に関わらない訳には行かなかったと言う事だ」
師父は、俺の才能に執着していた。自分の全てを叩き込もうとしていた。しかし、何故か最後の最後に俺を手放そうとした。らしくも無く、心からの情を掛けて。
俺は、それに答えようとした。どうしようも無い破綻者ではあったが、俺にとって師父は間違い無く『親』だった。『親』の願いなら、聞いてやろうと思ったのだ。
しかし結局、積み重ねて来た業が俺を離さなかった。刀匠として名が広まると、昔の仕事関連、或いは逆恨みで俺を殺しに来る奴が沢山居た。当然死んでやる訳には行かないから、悉く斬った。すると、その評判が傭兵としての仕事を産んだ。始めは、小遣い稼ぎ程度に。しかし次第に、それを主に。師父の形見でもあった無名の千子村正を手に、俺は戦場を掛け巡った。おどろおどろしい血の斑道を築きながら。
そして俺はまたずるずると、『こんな世界』に入り込み…気が付けば、要村正と呼ばれていた。業に呑まれ、業に生きる事になってしまった。
「ま、後は泥沼だ。何をしてもどうしようも無い、只呑まれるばかりの泥沼。腕の良さのお陰で五体満足で生きてはいるが、それも何時まで続くやら」
そう、泥沼。挙げ句、俺は何よりも大切なものをそこに巻き込んでしまった。泥の中に、沈めてしまった。
俺みたいなクズに、救いなど無い。無いのだ。
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