要村正

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 あいつを拾ったのは、正に偶然だった。  こんな冬の時期に高山地方小峰なんて、滅多に行きやしない。ましてやあんな北方の山間にある小さな村なんて、行く理由も無い。  ただ、あの時はたまたま小峰に行く用事が出来た。そしてたまたま、あの村へ寄ってみようと思った。  理由は特に無い。ただ何となく気が向いた、としか言い様が無い。丁度いいから少し長く滞在して、霊峰でも登ってから帰ろうとか思っていたに過ぎない。深原野の春が過ぎるのを待ちたかっただけに過ぎない。  そうしたらどうだ。何と、たった一人で墓群を作り上げているガキが居たのだ。ご丁寧に石を乗せ、名前まで彫って。  ガキは一連の作業でフラフラな上、両手の爪が悉く無かった。深く深く穴を掘り、死体を引きずり、納め、穴を埋め、石を置き、名前を彫り、またそれを繰り返し…その数、十八人分だ。幾ら火事場の馬鹿力的な要素があったとしても、余りにも凄まじい。ガキの所業とは、とても思えない程に。 「何があった?」  俺の問いに、ガキは今にも死にそうな面で、息も絶え絶えに答えた。 「皆、死んだ。だから、埋めた」  …正直、答えに成って無い。しかしガキにはそれが限界だったらしく、俺が再び問うよりも先にそのまま気絶してしまった。  その場には俺とガキしか居ない訳で、結局そのまま面倒を見てやるしか無かった。主人が死んだ空き家だらけだったし、まあ適当に入り、ガキを寝かせてやった。  ガキは暫くすると目を覚ました。そして開口一番。 「あの男は何処に行った」  意味不明。だが取り敢えず聞き返した。 「あの男ってのは?」  ガキは目を細め、宙を睨みながら呟いた。 「銀の目をした男…」  ガキの目は、実に暗かった。この世の地獄ってやつを知った目だった。銀の目をした男とやらが、その根源だろう。 「分からん。俺が来た時には、お前しか居なかったぞ」  ガキはそこで初めて、俺の顔を見詰めた。漸く気付いた、と言う面で。 「…貴方は…村の皆は?いや、俺は…ーっ!!」
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