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ガキは自分の右腕を凝視する。そこには何やら妙な刺青があった。ガキはそれをしきりになぞり、何だか禍々しい目をしながら涙を流し始めた。
「ああ、くそっ、畜生。あいつは何で…何でっ!」
ぎりぎりと歯を鳴らしながら、ガキは刺青を掻きむしる。このまま放って置けば、腕が血塗れになってしまうだろう。
だから、取り敢えず左腕を捻り上げ、止めさせた。
「畜生、畜生、畜生、畜生…」
抵抗するでも無く、ガキはそう繰り返す。何に対する罵倒なのかは分からないが、何かとんでもなく不吉な気配は感じた。
「何があった?」
最初の問いを、再びガキに向ける。ガキは俺を睨む様に見、激しい口調で答えた。
「銀の…銀の目をした男が、皆を化け物に変えたっ!皆、家族を殺して…翔も…おじさんに…あんな…あんな…っ!」
ガキは息を荒げ、狂ったように喚く。息を荒げ過ぎて、過呼吸になりかけてすらいる。
「落ち着け。化け物ってのは何だ?銀の目をした男とやらは、一体何をしたんだ?」
俺は何とかガキを宥め、事情を聞き出そうとした。面を引っ叩き、押さえ付け、また引っ叩き、水を飲ませ、呼吸を落ち着かせ、ガキは漸く静かになった。
ガキは、ぽつりぽつりと語った。一体何が起きたのか、その全てを。正直、信じられない話だった。しかしその目は、嘘や妄想を語るものでは決して無い。紛れも無い真実の色が、そこにはあった。
ガキは、最後に告げる。
「俺は殺したんです…いや、殺した筈なんです。短刀は、確かにあの男の左胸に突き刺さった。でも、あいつは死ななかった。それ所か、笑いながら…」
「ふ…っははははは、そうか…お前が私の運命か!」
「ならば、お前には資格がある。我々と同じ存在に成り得る資格が」
「生きるがいい…死を食み、魂を砕き、生きて、生き尽くして、そして私を殺しに来い!この心臓を、再び貫きに来い!」
「愉しみだ…実に愉しみだ。私は遂に、運命を得た!」
ガキは、ガタガタと震えていた。それはそうだろう。心臓を貫かれても死なず、そんな訳の分からん事を抜かす気違いじみた化け物等、恐怖して当然だ。
いや、それとも…他人の生をその手で奪いかけたが故の、自らへの恐怖だろうか。
かつて、初めて人を殺しかけた時…俺は後者だった。こいつは、どうなんだろうか。
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