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しかし銀の目…銀瞳の男か。そんな奇っ怪な奴、何か仕出かしていたならばこの俺が知らない筈が無い。おまけに、不死身と来たもんだ。
だが当然と言うべきか、記憶の引き出しからそれらしき者は出て来なかった。
「この腕…」
ガキは、掻きむしっていた右腕を示した。
「こんな物、無かったんです。でもあいつの左胸を貫いた時、もの凄い痛みがあって…」
その刺青は、何かの記号か文字にも見えた。恐らく何らかの呪式の類だろうとは推測出来たが、その方面に疎い俺にはそこまでしか分からない。
「運命…あいつは一体…俺は…」
ガキは呟き、また涙を流す。一体何の為に泣くのか、自分でも分かっていないだろう。悲しみ、怒り、憎しみ、苦しみ…あらゆる感情が混ざり、流れる涙。
俺も、そうだった。
…兎に角も、これで大体の事情は飲み込めた。しかし大きな問題がある。母親所か故郷を根こそぎ無くしてしまった、こいつの処遇だ。
「お前、父親に当てはあったりするのか?」
俺の問いに、ガキは首を横に振る。
「母さんとおじさんだけが、知っていたみたいです。俺は何も…ただ、これだけが」
ガキは例の短刀を俺に差し出した。鞘から抜くと、その刃は黒味の強い色をしている。生々しく残る血痕は、銀瞳の男のものだろうか。
「ダマスクスか…しかも、かなりの業物だな」
「それは、元々父の物みたいです。母が大事にしていました」
ダマスクスは、本来硬すぎて刀を打ち出すには向かない合金だ。こいつを刀向けに精製・加工する技術を持つ刀匠は極めて少ない。今現在では俺を含めても、数える程度しか居ないだろう。この短刀自体は、数十年前の物と推測出来る。刀匠が生きている可能性はある筈だ。
だが、角度を変えその鍔を見た瞬間…そんな考えは吹き飛んだ。
鍔には、複雑な紋様が施してあった。一見すれば単なる唐草模様にしか見えないが、しかしよくよく見れば一つの形を造っている。
一陣の風となり空を翔ける、隼の姿を。
家紋でもある隼の紋を好んで使い、挙げ句こんな複雑で意味不明な隠し方をするような奴など、俺は一人しか知らない。
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