要村正

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 深原野の領主である楡森家の現当主…楡森一可だ。  しかしよりによって楡森とは、このガキも不運な事だ。一可は愛人がわんさか居ると言う話だから、こいつの母親もその一人だったんだろう。  あそこは正直、かなり特殊なお家柄だ。いや、正確に言えばあそこに居る人間達自体が、何かおかしいのだ。  特に、長男の一長。あれは正に、化け物と呼ぶに相応しい。  会ったのは去年。奴は十二歳、しかもその戦が初陣のガキだった。俺は楡森に敵対する側に雇われていて、たまたま相手をする事になった。  しかし背は高いが所詮ガキの筈なそいつは、俺を一人きりで押さえ込むと言うとんでも無い戦果を上げやがった。俺の驚き足るや正に「まさか、こんなガキがこの俺と」だ。  おかしいとは思ったのだ。初陣だと言うのに一人の共も無く、真っ直ぐに俺の所へ向かって来た時点で。まあ負ける気こそ全くしなかったが、俺が他に構う程の余裕を与えない強さは持っていた。おまけに、非常にキレた奴だった。頭もそうなんだが、何よりもその性格、人間性がだ。  恐らく将来はあいつが、楡森の当主となる筈だ。それ程の才覚、極上の器だった。  だが、それ故に余計に、このガキは不運だった。既にそんな化け物が存在する家で、このどうしようも無いガキに居場所なんてあるのだろうか?そもそも、一可は自分の手元に置くつもりが無いからこそ、短刀を託しただけでこの母子を放置したのだろう。  生まれた時点から見捨てられているのだ、こいつは。  俺のように。 「…仕方無い。俺と来い、ガキ」  …気が付けば。俺はその言葉を口にしていた。  柄にも無い。傭兵として人を斬り続け、刀匠として人を斬る刃を造り続ける俺が、この不運極まり無いガキを救おうとでも言うのか。  茶番だ。余りにも下らない。滑稽だ。  だが…必然か。  俺は、既に重ねてしまっているのだ。自身の過去と、このガキの不運な境遇を。  で、当のガキはと言えば。呆気に取られた面で目を見開き、俺を凝視していた。
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