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◎◎◎◎◎
「犀人。お前、銀瞳の男以外の人間を殺す覚悟はあるか?」
飯を準備し、犀人を叩き起こし。特に会話らしい会話も無く黙々と食べていたが、俺はつとそう聞く。
犀人は当然、何故そんな事を聞くんだ、と言う面をする。
「正直、俺の剣は人を生かすもの、言わば活人剣じゃねえ。人を殺し踏み散らすもの、つまり殺人剣だ。俺はそれしか知らない、即ちそれしか教えられない。人間を斬る為の、外道の技しかな。まあ、つまりだ…それを学ぶと言うのなら、お前は何時か必ず、人を殺す事になる」
人殺しの技は、人殺ししか育てられない。
亡き師父は、俺にそう告げた。幼い俺は震えたが…それ以外の道も無かった。どうしようも無いクズだった俺には。
こいつはどうだ?少なくとも現時点では、クズでは無い筈だ。即ち…。
犀人は難しい面で沈黙する。悩むと言うよりは、困っているような面だった。
「分かりません…そんな事まで、想像出来ません」
…恐れは無いのか。喉元まで出かかったその言葉を、俺は引っ込めた。 犀人の目は強い決意と、暗い闇に満ちていた。目的の為ならば何をも厭わない…そんな目だった。
恐れ、怯え、引く。そんな余裕すら無い程に、こいつは前に進む事しか考えていない。
そして、その闇は…。
「あの、要さん」
「恒平でいい」
「…恒平さん。何故貴方は、俺なんかの為にこんな?しかも、俺の我が儘まで真剣に…」
…それは、俺自身が一番不思議に思っている事だ。この俺が、残虐非道の死神要村正が、こんなどうしようも無い不運なガキに矢鱈と世話を焼くのは何故なのか。俺が聞きたい。俺に。
まあ、やはり…重ねてしまっているせいなんだろうが。
もし自分自身が重なるような奴が目の前にいるとしたら、大概は親近感を抱く、或いは毛嫌いするかだろう。俺は自分が可愛いから、前者だと言うだけの話だ。
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