プロローグ 《滅びの国》

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侍女は胸に手を当て、乱れた息を整えてから目の前の扉を開け放った。 ―――不意に 生暖かい風が少女達を包む。その時風と一緒に飛んできた砂埃が少女の視界を一瞬奪う。 目に入った砂を涙混じりに払いのけ再び目を開くとそこには―――侍女が見るに絶えない無惨な姿で横たわっていた。 コンマ数秒。まさしく"ソレ"は刹那の出来事だった。 一体なぜ音もなく侍女は骸になったのか、少女には皆目検討がつかない。けれど"何か"が確実に少女を心を揺るがした。 少女の心臓の鼓動は一回、ドクンッと大きく高鳴った。 ただそれは、侍女の変わり果てた姿に恐怖を抱いた訳でわなく、狂喜の高鳴りだった。 ―――ついさっきまで、血が脈打ち、肉がタンパク質の皮の下で蠢き、肺が伸縮し、心臓が鼓動を上げていた単調な人という塊から、血が背景。 肉と皮がグラデーションとなり肺がアクセント。 心臓が象徴となった一つの芸術へ変わった事への感動が少女の氷の心を揺るがせ始めた。 "ソレ"は今まで感じた事の無い感覚だった。 体中の血液が沸騰し、脊髄と神経に電撃を走らせたような感覚で、脳が必死に否定しているのに体と心が言うことを聞かない。 人が熱い物に触れた時、意識せずとっさに接着面を放す『反射』と同じように、脳が否定するのを反射的に肯定する。
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