一章 虫の知らせ

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  「…あまり、気にしない様に頑張ります」 そうとしか言えなかった。 出来ない癖に、それ以外の言葉が見つからない。 その場凌ぎの、逃げの言葉。 「……出来ないならさ」 口には出していなかったはずなのに、まるで軋魅の言葉を聞いていたかの様に、ロゼは言った。 「出来ないなら、上書きしちゃえば?」 「上……書き?」 「そ。上書き。例えば、軋魅ちゃんの好きな事沢山やるとか、好きな人と一緒に過ごすとか」 「つまり……楽しい事をいっぱいして嫌な事を忘れろ、と?」 「そゆこと」 妙案だと軋魅は思ったが、しかし今日は実行に移せそうにない。 「今日は仕事なのですよ、結構大きめな」 普段なら狩猟課と回収課それぞれ一名ずつで事足りるのだが、今回軋魅に来た仕事は大人数での仕事だった。 内容はどうやら殲滅戦らしい。 自然と気合いが入るが、今の精神状況だと些か不安が残る。
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