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雨が降っていた事に気付けたのは、しばらく経ってからだった。
鉛色の空から滴る雫は、傘もささずただ突っ立っている小さな身体に当たって弾ける。
少女は今のこの状況を頭の中で整理しようと試みた。
此処は何処だ。
何故こんな場所にいる。
いつからいた。
私は何をしていた。
しかしいくら思考を巡らせても、全ての問いに対する答えが出てくる事はなかった。
「………帰らなきゃ」
ぽそりと、少女は一言だけそう呟いた。
早く帰らなければいけない用があった訳ではない。
ただこうして呆然と立っていても、何も変わらない、時間がもったいない。そう思ったからだ。
「帰らなきゃ」
少女はもう一度同じ言葉を、自分に言い聞かせるかのように発すると、濡れたアスファルトを素足でぺたぺたと歩きだした。
無気力に、ふらふらと。
雨音だけが、異様に静かな街を包んでいった。
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