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「まるでゾンビだね、キミ」
後ろから男の人の声が聞こえた。
スーツのズボン、ラフに着たワイシャツに緩めた赤いネクタイ。
白い髪の青年が、少女と同じように傘をささずに立っている。
一見すると普通の一般人にも見えなくもないが、痛々しく縫い付けられた左目と、何よりも右手に持つライフルが、彼が普通ではない事を物語っていた。
「ああ、でもゾンビって【生ける屍】だから違うか。キミは屍じゃないし」
「…………」
「でもまあ、キミが生きてないのは確かだけど」
一瞬、青年の言ってる意味が、少女は理解出来なかった。
「……生きて…ない?」
「え、何、もしかして気付いてなかったカンジ?」
青年は薄く笑いながら少女に一歩近付く。
訳が分からない。
私は此処にいる。存在している。
生きて──
急に足元がふらつき、少女は地面に倒れこんだ。
脳味噌が現状を把握仕切れていない。
さながら電子回路がショートしたかのようだ。
立ち上がるろうにも力が入らず、手足カタカタと小刻みに震える。
その時だった。
50代くらいのタヌキ腹の男が、傘をさしてこちらに向かって来る。
少女は起こしてくれと言わんばかりに右手をのばした。
だが男の歩みを止まる様子は無く、少女がのばした手にも、それどころか少女の存在すらも無視して通り去って行った。
───少女の身体を、すり抜けながら。
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