彼女とピコ

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 「ピコは、憎しみから生まれたの?」  尋ねつつ、彼女は”それ”を抱き上げる。  「そうとも言えますし、そうではないとも言えます」  ”それ”はごまかすように言う。そののっぺりした表情を見て、彼女は首を傾げた。  「ほんとはどっち?」  「どちらとも、です」    ”それ”の答えに、彼女は混乱する。意味を理解しようと頭をひねる彼女に、”それ”は淡々と説明した。  「私はあなたの道具です。道具は『道具』という名の存在だから道具なのではなく、それを道具として必要とする人、そしてそれが果たせる何らかの役目がある時、道具になるのです。例えば、道に落ちている石。それだけではただの石です。しかし、誰か穴を掘りたい人がいて、その石に地面を掘る事ができるなら、その石は『穴を掘る道具』になる訳です」  そこで一度言葉を切って、”それ”は窺うように彼女を見上げた。  「憎しみは、私という”存在”の『材料』に過ぎません。私は道具です。あなたが必要としたから、私は生まれてきました。あなたが望んだ行為が私の役目であり、それを行う力を持って、あなたの所へやってきました」  ――沈黙。  ”それ”を見つめたまま、彼女は何も言えなかった。今、自分の中にある気持ちを表す言葉が分からなかったから。    「あなたは憎しみを抱いて私を望みました。――だから私は、ここにいるのですよ。ご主人様」  ”それ”は、最後にそう言った。
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