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Ⅰ
「何でも屋のサトウです。何でもお申しつけ下さい。料金はご依頼の内容で決めさせていただきます。見積もりは無料です。」
俊夫と妻の栄子は電話帳のこの広告を見ながら言った。
「こんなもんでいいか。退職金をこんなことに使うことになるとはな」
「仕方ないわよ、番号だけより有利だと思うわ」
俊夫はリストラで会社を早期退職したばかりだ。子供がいないので妻である栄子と暮らせる分の収入があれば十分と考えたのだ。これといったスキルもないので再就職も難しいと思った。苦肉の策として何でも屋をしてみようと決めた。その決定に栄子は最初反対した。依頼なんか来るわけないというのが栄子の出張だった。しかし俊夫は何度も栄子と話し合いをして説得した。
「やってみなければわからないじゃないか。君に働かせて悪いとは思っている。しかし今はこれしかないと思うんだ」
「……わかったわ。でも退職金が残り少なくなっても依頼が来なかったら別の仕事を探してちょうだい。これが条件よ」
俊夫はやっと栄子が承諾してくれたのでホッとした。早速電話帳に載せることにしたのだ。電話番号は携帯電話のほうがいつでも依頼の電話を受けられるので仕事用に新しく買ってその番号を載せた。
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