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2010年5月28日(金)
イギリス 某古城
「は、はぁ、はぁ」
一人の少女は長く暗い石造りの通路を走っていた。白と紅のドレスを纏った長くて黒い髪の少女だ。
その通路には様々な肖像画が飾られている。どれも不気味なものばかり。肖像画はこちらを見下出し、蔑み、畏怖しているように見える。とにかく気持ち悪い。
少女はそれらを気にしながらもひたすら通路を走っていた。
そう少女は追っ手から逃げている所だ。汗を額から垂れ流し、腕や足にはあざや流血が見られる。
「お嬢様、こちらでしたか」
突然、柱の影から男が現れた。柱に隠れていたのではなく、影の中から姿を現したのだ。
しかし、少女はさほど驚かない。まるでいつも見ている光景かのように。とりあえず走りながら話しかける。
「オシリスか。どうだった?」
「何人かは殺せました。しかし他はまくのが精一杯で……」
「いい、とにかく今はこの城から脱出することだ。時間さえ稼げればそれでいい」
少女は男を促して走る。少女と並行して男も一緒に走り出した。
この男、この少女の執事で名はオシリスと言う。背は高く黒いスーツを纏っている。かなりの二枚目だ。だが瞳は黄色く光り、まるで猛獣の様。爪や犬歯も少し長い。どうやら人間ではないようだ。
「くそ、やつらわたしの血がそんなに醜いものだと言うのか。母様が死ぬと同時にわたしを殺しに来るなんて」
「仕方ありません。我々は昔から血を重んじて来たのです。まして貴方の父君は……」
「うるさい! わかっている」
少女は傍らで走る執事の言葉に感情的になり、目に涙を浮かべる。
それも束の間のこと、それを拭うと何事もなかったかのように廊下を駆け抜ける。
「姫様。今回の首謀者はお嬢様の母君の弟リューク様です。前々から主乗っ取りの情報は微かに入っておりましたが首謀者は先程の戦闘で聞き出せました。確かな情報です」
少女はため息をついた。
「やはりか。あいつは昔から好かなかった。昔からわたしを主の器ではないと母様といつもごねていた。それで母様が死んでわたしを殺しに来たわけか」
「しかし、いくら血を重んじると言っても最近はその考えも薄まってきていますのに、まさか城の者の8割近くに矢を向けられる事になるとは思いませんでしたが……」
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