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「でも、今のあなたは私の描きたいあなたじゃない。まだあなたに未練が残っているから、人間の本来の姿をしていない。それも、本能的な欲による下劣な未練ではなく、人間特有の崇高な未練。だから、特別に私があなたを生き返らせてあげると申し出ているの。そうすればその未練は改善されるでしょうから」
随分と私情を優先する死神さんだ。死んだ人間を形振り構わず大きな鎌でズバズバと斬り捨てて行くイメージしかなかったが、本当の死神は絵を描く事が好きな変わり者らしい。
「それで、どうするの? 早くどちらかを決定して。あなたが、あなたの意志で」
悩む必要はなかった。
僕の瞼の裏側に出て来た少女はきっと、僕のことを待ち続けているに違いない。
せっかく死神がこうして特別サービスで生き返りを認めてくれているんだ。迷っている暇なんてないだろう。
「分かった。それなら、僕を生き返らせてよ」
「そう言うと思っていたわ。ありがとう、私の我が儘に付き合ってくれて」
イーゼルの向こう側の椅子に腰掛け、彼女はカンバスを地面に置いて説明を始めた。
「生き返るにあたって、被る代償を二つだけ説明しておくわ。まず、あなたに返上するのは完全な記憶じゃない。死んだ一週間ほど前までの記憶は無いから気をつけて」
一週間ぐらいなら構わないか、と僕は妥協して肯いた。
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