108人が本棚に入れています
本棚に追加
「あなたの記憶に残っている少女が、あなたに愛されているから。私にはその感情がどのようなものだったかもう思い出せないけど、きっとその少女は幸せ者だと思う」
柔らかな笑みで悲しいことをさらりと零し、それから彼女はイーゼルに白色の布を被せる。
「君は――――」
「向こうの世界に戻ったら、この世界についての記憶は無くなる。だから、あなたはもう私を思い出すことはない。次に会う時は、あなたがもう一度死んだ時。……だけど、私はここからずっとあなたを見守るわ」
僕が喋るのを遮ってそう言い、彼女は髪留めを外した。乱れ一つない長髪がさらりと揺れてゆっくり落ちる。
「それじゃ、また会う時まで――――――――――さよなら」
それが僕の聞いた最後の言葉だった。
次に気付いた時は、既に暗闇の真只中に僕は佇んでいた。
そして、少しずつ眠るように感覚がすっと抜けて行くのを感じる。
それから先の事は、僕もよく覚えていない。
最初のコメントを投稿しよう!