用意された奇跡 1

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僕は病院が嫌いだ。   と言うのも、僕は一度だけ小学校の頃に大けがをして入院した経験があるからだ。   好奇心旺盛な小学生なら、一度は木登りという遊びにロマンを感じると思う。実際、僕もその一人であり、運動神経が悪いにも関わらず校庭にあるメタセコイアという木に挑戦した。   案の定、僕はバランスを崩して無様に落下。そして、着地の瞬間に着いた左脚はあっさりと骨折した。   痛みも相当なものだったが、それ以上に嫌だったのが入院先の先生だ。   熊殺しとでもニックネームが付いていそうな大きい男の人で、黒い肌や鍛えられた筋肉、厳つい顔が何と言っても凄まじかった。性格自体は温厚で優しいのだが、何せその巨体のせいで力のコントロールが制御出来ていないのだ。触診の時も軽く押すだけで脚が取れるかと思ったし、何より廊下で会った時に挨拶代わりに背中を叩いて来るのが一番のトラウマである。   先生の方は軽く元気に挨拶したつもりなのだろうが、あの衝撃は軽く息が止まる。せき込む僕を見て、先生は「がっはっは」と大男特有の笑い方をしていたが、小学生の頃の僕にとっては恐怖以外の何物でもなかった。   だから、その病院の天井の情景はよく覚えている。いつも朝になり、その真っ白な天井を見て僕は気分を害するのだ。   あぁ、まだ入院生活か。早くあの先生から解放されたいのに、と。
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