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死神は何と言っても描画を好むのだと、僕は初めて知った。
彼女は鎌といった物騒な物など持ち合わせておらず、ただデッサン用の木炭を手に三脚のイーゼルの向こうで腰を下ろしていた。
白の装束を身に纏う彼女は、その長い銀髪を派手な赤色のクリップで括っている。そして、肌理細やかな白色の手でイーゼルに掲げたカンバスに絵を描き始めた。
そこは不思議な空間だった。
床は純白のタイルで、壁は存在しない。ただ、地平線のように延々と床は世界を拡げていた。天井も無い。見上げても、夜空よりももっと暗くて寂しい闇の集まりが覆っているだけだ。
この空間にある唯一の光源は、イーゼルの横に設置された大型ランプだけ。後はただ暗闇が静まり返る。
その計り知れない闇を除けば、ここにあるのはイーゼル、カンバス、大型ランプ、それから絵を描く彼女の座る丸椅子。そして、イーゼルと対して置かれた木椅子に座る僕だけ。
気が付けばこんな場所にいた僕は、慌てて辺りを見渡す。
そう、いつの間にか僕はこの空間にいたのだ。
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