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現状に戸惑う僕と相反して、銀髪の彼女は炭で煤けた指を動かしながら絵を描き続ける。
知らない女の子がデッサンの被写体に僕を選んでいる理由が分からず、僕は口を開いた。
「あの、君は誰?」
今までカンバスを一直線に見ていた彼女の赤色の瞳が、ようやく僕の方へと動く。
全てを見透かすような冷静な目で僕を一目見ると、彼女はまたカンバスに目線を戻して描画に没頭する。
無視されたのだろうか。もう一度声を掛けようと椅子から立ち上がろうとすると、彼女はすぐさま反応した。
「口を動かすのは構わない。けど、身体は動かさないで。今、絵を描いているから」
彼女は見た目通りの抑揚のない静かな声で、僕の方を見向きもせずに言う。
僕はその言葉に思わず「ゴメン」と呟き、再び椅子に深く座った。
しかし、それ以降も彼女は黙々とデッサンに励むだけで何も話し掛けて来ない。これはこちらから話し掛けて来いという彼女の促しなのだろうか。
「ねぇ、もう一度訊くけど、君は誰なの?」
すると、今度はちゃんと返答してくれた。
「……人は私のことを天使と呼ぶこともあれば、悪魔だと罵ることもある。けど、私はそのどちらでもない。私は人の魂を司るだけの役目を果たせられた、ただの死神」
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