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「仮に僕が死んでいたとして、僕はどうなっちゃうのさ」
「仮、じゃない。あなたは死んだ。それは紛れもない事実」
「いいから答えてよ」
「元ある世界に帰るだけよ。全ての生命の源、それを生み出す神秘的世界にね。簡単な話でしょ、魂が生まれた場所に魂が帰って来る。ただ、それだけのこと」
まるで世界の仕組を全て熟知しているかのような口振りで話す彼女は、指で描いた部分を軽く擦ってぼやかせる。
そして、また沈黙が始まる。
この彼女との沈黙が居心地悪く感じられ、僕は何とか話を続けるように試みた。
「よく分からないけど、要は、魂を生み出すとかいう世界へ僕の魂を帰らせる為に君がここにいる。そういう解釈で大丈夫なのかな?」
「ええ。きっと、それで合っていると思う」
「そっか。なら、君が自分を死神だと称するのも納得出来る。けど、それと君が僕の絵を描く事には何の関係があるの? どうして君は死神なのに絵を描いているんだ?」
どうしてそんな質問をしたのか僕自身もよく分からなかった。
けど、その問い掛けのおかげで彼女は初めて人間らしい表情を見せた。ほんの少しだが、回答に困るような戸惑いが彼女の顔に浮かぶ。
しかし、彼女はすぐにまた無表情に戻った。
「人を描くことが好きなの」
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