プロローグ

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「私は、気付けばずっとこの空間に閉じ込められていた。もう何百億人という人間の魂を扱ってきて、正直うんざりしている。望んでも無いのに、私はこの暗闇で死神として活動し続けなければならない。死ぬことも生きることも許されない。今までも。そして、これからも――――――ずっとね」   事情は知らないが、彼女はこの何もない空間でずっと孤独だったのだろう。   そりゃ、死んだ人間とは毎回会っているのだから一人ではないのだが、それでも家族や恋人といった心をあたたかくしてくれる人間は皆無。精神的に彼女は孤独だ。   どういう訳か、死んだ僕の方が何故か死神に同情していた。 「けど、あの人は唯一私に絵を描くことを許してくれた。だから、私はこうしてここに来た人間を描き続けた。人間の死は非常に美しい。どれだけ傲慢な人間も、この部屋に来たら魂の穢れを洗浄されるから、本来あるべき姿に戻るの。死を認め、生を理解し、魂の母に感謝する人間は、本当に綺麗で泣きそうなほど美しい。私は、そういう人間を描きたいのよ」   あの人、というのが少し気になったが、それでも僕が一番注目したのは彼女の人間らしい部分のところだ。   死神だと言っているが、絵の話になると彼女は抑えている感情を露わにする時がある。   好きなんだろう、それだけ絵を描く事が。   絵を描く事こそが、彼女の存在を証明する唯一のものだから。
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