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珍しく客を取らずに朝早くに目を覚ますと、鳥のさえずりが聞こえるほど部屋は静けさが漂っていた。
いや、部屋だけじゃない。
賑やかさだけが象徴であるこの街全体が、静けさに包まれて、まるで別世界に放り込まれた錯覚に陥る。
そんなしょうもない話を自嘲しながら、私は乱れた寝間着からいつもの楽な格好へと着替えた。
町民のお洒落のお手本とされる遊女とは程遠い、着慣れしたどちらかと言うと小汚い格好にあたるその姿は私にとっては“ただの女”でいられる時だ。
その上に羽織りを着、階段を降りて向かうのは裏口。
見世出し以外は表口を使うことは、よっぽどでない限り有り得ない。
そして、草履を履いて外に出ようと扉を開けると、
「何処に行く?」
と、開けた先に私の苦手とする、この置屋の用心棒・朔太郎がいた。
何があっても無表情であるのが気味悪くて、言葉を交わしても素っ気なく一言で片付けられてしまう。
だから、極力関わらないようにしていたのに、朝から出会ってしまうなんて…、顔がどうしてもひきつってしまうのは隠し様がない。
「ちょっと、散歩に。目が覚めてしまったし、丁度、天気も良いから」
そう言いながら、頑張って笑顔を作って此処から早く立ち去ろうと朔太郎の横を通り返事を聞くより先に表通りに出ようとした。
でも、そんな頑張りは一気に無に変わって、私をどん底に突き落とす。
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