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「あったね、そんな話。懐かしい」
部屋の中にある金魚を見ながら薄葉は曖昧な返事を返した。
「確か、他にもそれに似た話があったよね? まぁ、姐さんがあんたの反応を面白がる為に作った話ばっかりだったけど」
そう、だから出来たら思い出したくない。
なのに、薄葉は思い出しては腹を抱えて笑っている。
その事に恥ずかしさを覚えて、頬を膨らせて拗ねて見せた。
そうしたら、まだ笑いを抑えられないながらに「ごめん、ごめん」と謝った。
「薄葉なら知っているんじゃないの? その話が作り話かどうか」
「まぁね、あんたの反応を楽しんでたのは姐さんだけじゃなくて、私もだからね」
「それで、どっちなの?」
「教えてあげない」
「えっ?」
私は知りたくて仕方がないのに、勿体ぶる薄葉に気の抜けた声が不意に零れた。
その事にまた笑い出す薄葉は「それはまたその人に会ったらわかる話よね?」と、言う。
でも、今日会ったばかりの人にそう簡単に会えるわけがない。
なのに、教える気はまったくない薄葉は舞の稽古があるからと逃げるように部屋から出て行った。
「薄葉っ…!! もうっ、まったく」
気を長くして私は待つしかないのかと、もう肩を落とすしかない。
でも、それを待ち遠しく感じられて楽しみだ。
作り話なら良かったとなるし、神様なら凄い事だもの。
あれ、私今すごく現実離れしようとしてる?
いや違う違う、信仰の一種だから大丈夫。
「何時、会えるんだろう…?」
なんだか、楽しみで楽しみで仕方がなくなったポツリと言葉がもれてしまう。
すると、私の発した事に返事をするように背後から声が帰ってきた。
「会えないぞ、間夫狂いだったらな」
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