序章 櫻の知らせた出逢い

8/8
前へ
/8ページ
次へ
「武秋!? …盗み聞きなんて、たちが悪い」 「人聞き悪いこと行ってんじゃねぇよ。何度か声はかけてやったのを、無視してたのはお前の方だろうが。たくっ」 この言葉が悪い男・武秋は、着物を少々着崩し柄の悪さが滲み出ているが、盗み聞きの様な曲がった事が嫌いな正義感の強い男。 まったく、笑える話でそれを言ったなら直ぐにへそを曲げてしまう。 そんな様子の武秋に軽く謝り要件を聞き出す。 「見世だしの準備だ」 「もう? 今まだ…」 「東北の篠原様だったとしてもか? また怒らせるのか?」 「うっ、ご隠居様…」 篠原のご隠居は時間に五月蝿い。 いくら遊女の指名が重なって遅れただけで、機嫌が悪くなる。 それだけ、きちんとされた方なのだろうけど堅すぎるのも面白みにかける。 と、言いたいところだけど機嫌が良ければ、冗談ばかり言うような愛嬌のある老人。 まぁ、他のお客を相手にしているよりかは気が楽でいい。 だから「早くその着物を脱げ」と言われて襦袢になるのを拒まなかった。 いつもなら、拒んで武秋を困らせてやっている。 まぁ、そうすれば無理やり脱がされるだけだが…。 それが気兼ねなく出きるのは、小さい時からの仲だからなのか。 それを考えているのも知らずに、手際が良い武秋は黙々と私を着飾らせていく。 この派手で重たいとしか感じ差せない着物を。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加