◇プロローグ◇

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その料理を囲むのはぼくとお父さんと、それからもう一人。 名前はわすれました。ずっと前から一緒にいて、たぶんぼくの『お母さん』代わりをしてくれてるひと。 この人がいるからぼくはお母さんをほしいなんて思わないんだろうなって思います。 三人で小さなテーブルを囲んで、あったかいごはんを食べることは『家族』っていうかたちを作る一つの作業だと思いました。 間違って、ぼくがその人に『お母さん』と言ってしまったとしても、そのひとはたぶんふつうの顔をして「なぁに?」って言うはずです。 その「なぁに?」がかたどるものを、しあわせって言ってもまちがいではないはずです。 でも、ぼくは言いません。やっぱり『お母さん』が分からないぼくには「なぁに?」がかたどるしあわせも意味を持たないからです。 なげすてられるみたいに、うちあげられるみたいに、かんじんなものを持ってないのなら初めからいらないって思うからです。 だから三人で囲んだテーブルも、そこにいっしょにあるイスだっていつかは古くなって音をたててくずれることをぼくは知ってるんです。 あったかいごはんも、さめざめしてきて、のどを通るのはかわいた水だけ。
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