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『わたしの妻を幼い兵悟の目の前で殺してしまったからだよ』
静かな水面を思わせる瞳をしていると思った。
哀しみは含まれていたが、怒りは微塵も感じさせず、落ち着いている声が聞こえる。
あの白人は『赦さない』と言った。
『近付くな』とも。
マリアがバイクを走らせて1時間。
突然の訪問だったにも拘わらず快く迎えてくれた。
ジャック邸。
エディの後を着けて辿り着いた場所に足を踏み入れ、顔や名前を知っている程度の人物が目の前に座っている。
教科書で習った人。
祖父の弟が有能な政治家であることも聞いていた。
父も今や大統領をしている。
父が就任することをよく思っていない人がいることも知っていた。
なぜ、そんなに反対するのかわからなかったけれど。
マリアは愕然とするしかなかった。
『これは…想像でしかないが…』
ぽつりとジャックは告げていく。
『あの子の大事な者が目の前で消えてしまったことがあり、壊れかけたことがある』
『え?――』
『堕天使のプロモーションビデオを観たことはあるかい?』
『―…はい。凄く綺麗でした…』
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