満たす。

2/6
前へ
/210ページ
次へ
『わたしの妻を幼い兵悟の目の前で殺してしまったからだよ』 静かな水面を思わせる瞳をしていると思った。 哀しみは含まれていたが、怒りは微塵も感じさせず、落ち着いている声が聞こえる。 あの白人は『赦さない』と言った。 『近付くな』とも。 マリアがバイクを走らせて1時間。 突然の訪問だったにも拘わらず快く迎えてくれた。 ジャック邸。 エディの後を着けて辿り着いた場所に足を踏み入れ、顔や名前を知っている程度の人物が目の前に座っている。 教科書で習った人。 祖父の弟が有能な政治家であることも聞いていた。 父も今や大統領をしている。 父が就任することをよく思っていない人がいることも知っていた。 なぜ、そんなに反対するのかわからなかったけれど。 マリアは愕然とするしかなかった。 『これは…想像でしかないが…』 ぽつりとジャックは告げていく。 『あの子の大事な者が目の前で消えてしまったことがあり、壊れかけたことがある』 『え?――』 『堕天使のプロモーションビデオを観たことはあるかい?』 『―…はい。凄く綺麗でした…』
/210ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加