†兆†

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  まるで 部屋の主の心情を 写し出したかのように 落ち沈み針詰めた雰囲気の ロアの居室内。 肩にクロアの上着を羽織り、 数人掛けのソファーに 両足を上げ、 膝を抱えて座り込み、 小さく蹲り、 一人で クロアの帰りを待つロア。 ―『私も今日から聖殿に留まる事になりました。』― 何度も、何度も 繰り返し思い出す、 中庭で言われた “弟、セキル”の科白。 ―『一緒に過ごしましょうね。』― 「いっ…しょ……ッ。」 告げられた言葉を 口に出しかけて震える声と体。 終始、穏やかな笑顔と 優し気な口調で語りかけていた ロアの弟“セキル”。 何故、 これ程までに恐いのか、 今のロアには分からなかったが ―『兄上』― 「ッ!!」 セキルの姿を思い出すだけで 言葉や声が詰まり 出なくなってしまう程、 ロアはセキルが恐かった。 「はやく…。」 零れ落ちる 小さな呟き。 現在、クロアがセキルと共に 聖主に呼ばれ、 フィリルも神殿に行っており 誰も側に居ない状況。 唯一の頼りは クロアが出て行く間際に 肩に掛けてくれた上着だけ。 「…はやく………ッ……帰って来い…クロア…。」 恐れに満ちたロアの声。  
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