†兆†

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  「………クロアとだけは…だめ…なのか?」 「駄目だ。」 縋るような問い掛け。 「………聖殿の外も……?」 「出る事は出来ない。」 一見、 自由を与えられたようで ありながら、 何も変わっていない現実。 「私は………外に…出たい……。」 突き付けられる現実に 思わず零れてしまう ロアの本音。 「ちゃんとここに帰るからッ…もう…逃げだそうとしたりしないから…ッ…。」 始めはただ、恐くて堪らず、 衝動のままに、 この聖殿と云う場から 逃げ出そうとしたロア。 だが、 結果としては 走る事が出来ず、 例え、 走れても、 聖殿を囲う結界がある為に 逃げる事が出来なかった。 ―“記憶を思い出さなくてはならない”― と、父、聖主に言われ、 記憶を思い出せば 聖殿、聖域の外に 出られると思い、 必死で耐えているロア。 それでも、 「クロア…。」 一度、会話で振れてしまえば、 「逃げない…からッ…。」 溢れる―懇願。 クロアも出来る事ならば、 ロアを聖殿、聖域から 連れ出したかった。 それが どれ程、浅はかな考えだと 判っていても、 叶うならば、 ロアの懇願を聞き入れ、 今すぐにでも連れ出したかった。  
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