†兆†

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  「駄目だ。」 “逃げない”と、 聖域の外に出ても、 “帰って来る。”と 必死に懇願するロアへ、 クロアが告げる言葉。 「ロアを…聖域から出す事は出来ない。」 例え、 1日でも、 聖域の外へ連れ出してしまえば 次は帰る事への 負担を与えてしまうのは 明白だった。 「記憶が戻らなければ……思い出さないと、聖域の外には連れ出せない…。」 記憶を喪い、 聖域、聖殿に怯える ロアの願いは、 記憶のない 今、叶えなくては意味が無いと 判っていても…。 「……ちゃんと……思い出せば……ここから出られる?」 クロアからの否定の言葉に 傷付きかけた表情になるのを 押し殺して、 諦めるのではなく、 先の希望を支えにしようとする ロアの強さ。 クロアはロアが 記憶を取り戻せば、 聖域の外に出る事を 望まなくなると知りながら、 「その時は…俺の生まれた家に連れて行く。」 希望を与える、 偽りではないが 叶えられるか分からない 卑怯な答え。 それに、 「うんッ!!」 精一杯の笑顔を浮かべて 明るく頷くロアを、 自分自身に対する嫌悪と罪悪に 耐えながら、 クロアも優しく微笑み、 見詰め返した。  
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