†兆†

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  「“心配か?”」 何がと告げず問い掛ける セキルの言葉に、 「分かりません。」 本能的に明白な答えを避ける フィリル。 ロアに対するセキルの様子を 警戒して観ていれば、 気付いてしまう 下手に触れてはならない     カタチ 執着への歪み。 「流石は兄上の直属の部下だな。」 「えーと、…ありがとうございます。」 誘導的な言葉に 迂闊な言動で対応せず、 正しく反応するフィリルへ、 いたずらめいた笑顔で明るく セキルは感心する。 だが、 その笑顔と言葉の裏に 先ほどの答え方一つで、 ロアの傍から フィリルを本気で引き離す 画策があった事を 報せているセキル。 穏やかで明るく 気さくな態度を崩さない為に 油断できないセキルとの対話。 「私の居る棟はここの隣だ。」 「え…?」 唐突に踵を返し、 ここまで来た廊下へ 引き返し始めながら フィリルへ向ける セキルの言葉。 「今は分が悪そうだ。一度、自分の部屋に帰る事にする。」 「はぁ…。」 「何かあったら、いつでも訪ねて来ると良い。」 セキルは一旦、脚を止め、 フィリルに伝えると 自分の居住の棟へ帰って行く。 その姿を無言で見送りながら フィリルは 『警戒…しないとなぁ。』 内心でこれからの事を呟き、 重い溜め息を一つ溢した。  
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