†兆†

15/39
前へ
/519ページ
次へ
  その夜。 クロアの腕の中で眠る ロアの夢は大きな変化を迎える。 ――――― 少年は一人、 聖殿の長い廊下を歩いていた。 腰まで伸びた長い銀月の髪。 息を呑む程に美しい面は 俯きがちに暗く沈み、 白月の光を納めた瞳には 悲痛なまでの悲しみが 満ちていた。 つい、先程、 成人の儀を終え、 父と叔父の二人を交え 話を終えて来たばかりの 少年―ロア― これからは 大人の一員となる 新しい門出の日でありながら 喜びの感情が一切ない表情。 『どう…しよう…。』 一人、住み慣れた聖殿の廊下を 歩きながら浮かぶ、 取り止めのない言葉。 『どうしようもない、の…かな…?』 頭の中を何度も流れる、 先程の話の内容。      サダメ ―“――の宿命だ。”― 淡々と告げる父の言葉。 「私は……“恋情”なんて…知らないから…。」 生まれてから、 たった一度、一日限りしか 聖域の外に出たことのないロア。 自分以外に知る者は、 父と弟、叔父、従兄、遠縁の兄、 そして、 幼い頃に亡くなった“―”の 身内しかいない環境。 そんな中で 恋情が芽生える筈がなく、 あるのは親愛の情のみ。  
/519ページ

最初のコメントを投稿しよう!

223人が本棚に入れています
本棚に追加