†兆†

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  ―――翌朝。 早速、他の棟へ行く為に セキルがロアを迎えに現れ、 「おはようございます。兄上。」 「ぅん……おは…よう、セキル。」 前日からの対面と話で 心の準備が出来ているからか、 なんとか、 セキルと言葉を交わす事が 出来るロア。 「昨夜はあまり眠れませんでしたか?」 「え?」 軽く俯きがちになる事で 視線を合わせまいとしている ロアに セキルは問い掛けながら 目許に手を伸ばし 軽く触れる。 「ッ!!」 セキルの手が触れた途端、 反射に身を竦め、 緊張するロアの体。 「そんなに怖がらないで下さい。」 ロアの反応に苦笑するセキル。 「……その…。」 「顔を上げて下さい。」 セキルの言葉に 何と応えて良いのか 分からないロアへ、 優しく掛かるセキルの命。 「ッ………。」 抗いも躊躇いも疑問もなく 怯えていても大人しく ロアは従い、 今では兄である自分よりも 頭一つ分程、身長の高い 弟、セキルを見上げる。 「何処に行きたいですか?」 怯えたロアの表情には構わず、 行き先の希望を訊ねる セキルの問い。 「まだ、よく…分からない、から……セキルに任せる。」 思い出した記憶を辿っても、 情景だけしか思い出せず 詳しい場が分からないロアは 素直にそう答える。  
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